習慣HIROSE

まるで習慣のように毎日、見た映画・芝居・小説の感想を書いてます。

豊島ミホ『花が咲く頃いた君と』


 4話からなる短編集。いつもながらとても微妙な感情のゆらぎを繊細なタッチでとらえており感心させられる。このパステルカラーの淡さの中に、とてもささやかな毒を盛り込み、それが少しずつ体にまわっていく。かといって、それは決定的な何かにはならない。

 『サマバケ96』の2人の中学生、ユカとアンナの夏休みの冒険は2人の間に男の子たちが介入することで、最初彼女たちが思っていたこととはずれてしまう。外見の派手さとはうらはらにとてもシャイなアンナが、男の子と付き合うことを通して、ほんの少しユカとの間に距離を作ってしまう。中学生活最後の夏休みを2人で思いっきり遊ぼうと計画したのに、それが出来なくなっていく。決定的な別れがくるわけではない。アンナは男の子といることより、ユカと一緒のほうが楽しかったことに気付き、彼女のところに戻ってくる。でも、以前の2人にはもう戻れない。

 この小説の中には大きな事件なんて何もない。でも、ほんの些細な齟齬が2人の間に溝を作る。それは2人が成長したことの証なのかもしれない。しかし、そんな成長なんていらない。自分たちは無邪気な自分たちのまま大人になりたかった。だけど、そんなふうにはいかないことも事実だ。

 『コスモスと逃亡者』の少女は脳に何らかの障害を受けて、19歳なのに、幼児のような思考しかできない。高校生のころまでは、普通の生活をしていたようだが、今では家を出ることすら困難で、母親が仕事に行っている間は1日1回コンビニに買い物へ行く以外は一切外に出ないで暮らしている。そんな彼女が借金取りから逃げているおじさん(まだ、32歳の青年なのだが、彼女にはただのおじさんに見える)と出会い、一瞬心を通わせあう。2人のままごとのような時間が愛しく描き出される。

 祖父の死を描く『椿の葉に雪のつもる音がする』や、アイドルになってしまった同級生をずっと見守り続ける自閉症気味の男の子を描く『僕と桜と5つの春』も表面的にはことさら大きな事件はないが、彼らの中で何かが変わって行く時間をとても静かに見つめている。

 中学生の雁子にとって、大好きなおじいさんの死を看取ることは大きな事件だ。それと同じように欲しかったカーディガンを手に入れることも大問題なのだ。この2つの出来事は当時の雁子にとって、どちらとも比較できないような大問題なのだ。老いた祖父はやがて死ぬだろう。そんなこと、中2の少女である彼女にもわかりきったことだ。お母さんがカーディガンを買ってくれたことは嬉しい事だった。だが、同時にそれがやってきた時どう対応したらいいか、わからなくなる。それだけのことが描かれる。(本当なら、それをネタに1本の小説が書ける程のネタですらない。)

 この4編の中で描かれてあることは、一時が万事そんな感じだ。この小さな作品集には日常の中で埋もれてしまいそうなそんな思いがしっかり描かれてある。